底流の変化を見抜く習慣

底流の変化を見抜く習慣

日経ビジネスオンラインより、ベストセラーとなった『下流社会 新たな階層集団の出現 (光文社新書)』の著者の三浦氏の記事
http://business.nikkeibp.co.jp/article/skillup/20061031/112841/

 ―― 『下流社会』では、日本の格差拡大に潜む意外な階層意識を明らかにしました。例えば団塊ジュニア世代は「下」の人ほど自分らしさ志向が強く、団塊世代(「上」ほど自分らしさ志向が強い)とは逆になってる。これは予期していたわけではないそうですね。

 団塊ジュニアなど今の若者を語るキーワードが「自分らしさ」や「こだわり」だということは以前から言われていました。では、自分らしさ志向が実際にどの程度強いのか。それを知るために調査をしてみたのです。初めから階層によって差があるとの仮説を持っていたわけではありません。ましてや団塊の世代とは逆になるとは思わなかった。これは発見でした。

 ―― 世の中の変化をとらえる出発点は人や街の観察ですか。

 街を眺めて「こうなのかな」と語るのはエッセイストやトレンドウオッチャーです。そこにとどまらず、数字で検証するのが私のやり方です。階層意識、所得、人口、家族などの構造的な変化の表出として説明していきたい。トレンドとされる現象も、一時的な流行にすぎず、翌年には消えてしまうかもしれない。しかし、構造的な変化を伴っていて、変容しながら続くこともある。深層から出てきたものなのか、それとも波間にたゆたう葉っぱにすぎないのか。その判断ができなければ、マーケティングのコンサルテーションはできません。私は自動車や電機などの会社から仕事を引き受けていますが、そうした「金型産業」は開発期間が長期にわたり、巨額な投資を必要とします。明日には消えてしまう現象に飛びつくわけにはいかない。だから深層を調べる必要があり、多面的に分析します。

 ―― 三浦さんの分析は、人口構造の統計と消費の調査を組み合わせています。

 多くの変化は人口で規定されます。分母が変わるからです。15年ほど前、ある住宅関連の企業の人たちに「女性が1人でマンションを買うようになる」と言ったんです。みんな「違うんじゃない」という感じでしたが、その後、実際にそういう人が増えてきた。当時のトレンディードラマでは、浅野温子演じる独身女性が広々とした1LDKのマンションに住んでいたけれど、だからそう予想したわけではありません。団塊ジュニアが社会に出て、働く女性が増えれば、分母が増える。そう仮説を立てたわけです。ところが、その通りになると、昔は信じてくれなかった人が過大評価するようになる。自分の周囲にマンションを買った女性が出てきて、変化を実感するからです。
 東京圏に自分で買ったマンションに住む女性がどのくらいいると思いますか? こう尋ねると20万人ぐらいをイメージする人が多い。しかし私の調査では1万5000人程度だし、業界関係者に聞いても1万人ぐらいだろうと言います。マンションを買う女性が増えていることを報じる記事は増えても、全体像を調べたデータは載らない。だから過大評価してしまう。マーケティングには数字が必要です。すべてを数字でとらえなければいけない。特に表層的な現象に対しては、その努力をすべきです。あえて数字にしようとすれば、統計に詳しくなるし、自分の幅が広がります。

 ―― 根拠のある仮説を受け入れなかったり、新しい現象を過大評価してしまうのは、物事を正しく見ていないということですね。

 我々の持っている知識は、ほとんどが噂みたいなものでしょう。日本経済新聞に書いてあった、「日経ビジネス アソシエ」で特集していた…といった知識ばかりで、原典に当たった知識などほとんど持っていないと思います。「そう言われている」ことが事実なのか、根も葉もないものなのか、確認しなければいけません。多くの人は世間に広がる印象で物事を決めようとしてしまいます。しかしビジネスを成功させるには「本当なのか?」という疑問を持たなければいけません。常識を疑うことです。私の知る限り、印象だけで動かない会社の筆頭はトヨタ自動車です。トヨタの社員は一人ひとりが考え抜き、「本当でしょうか」と疑問をぶつけてくる。明日は消費者が変わっているかもしれない、売れなくなるかもしれないと、常に危機意識を持っています。

 ―― 『下流社会』では、「下」と「上」の違いは意欲の有無だと指摘しています。

 「こうなりたい」「こうしたい」という気持ちがあるかと聞けば、誰でも何かしら思っていることがあるでしょう。でも「上」の人は行動を起こすのに対して、「下」の人は思うだけで終わってしまう。それでは意欲があるとは言いません。行動が伴って、初めて「意欲」を意味します。

  • マーケティングには数字が必要です。すべてを数字でとらえなければいけない。特に表層的な現象に対しては、その努力をすべきです。あえて数字にしようとすれば、統計に詳しくなるし、自分の幅が広がります。
  • 我々の持っている知識は、ほとんどが噂みたいなものでしょう。

ひさしぶりにまともなマーケテングの記事でした。