ポール・オースター 鍵のかかった部屋

鍵のかかった部屋 (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

ポール・オースターの初期の三部作の三作目。

幼少の頃から学生時代までの親友ファンショーが失踪して、その妻より友人が書きためた原稿を見て欲しいと依頼を受け、その原稿を発表して成功をおさめ、その友人の伝記を書くために親友の母親との再会、学生以降の足取りを探していくうちに、主人公が追っている友人と一体化していく筋書きは、一作目、二作目の探偵と対象の人物と一体化していく話と同様のポール・オースターの世界。

ファンショーの学生以降の話は最初に読んだ時は知らなかったが、著者であるポール・オースターの略歴を知った後では、著者の実体験に基ずいているのだろうなと思いながら読み直す。 

「幽霊たち」では孤独な「書く事」をしている主人公である探偵を巻き込んでしまう。主人公は「読者」である。

ファンショーの話は「書く事」をする事で変化していった著者の青年時代の振り返りと思うのだが、ファンショーにとっては、また前作ではテーマであった「書く事」に囚われてしまった人の話と、その世界に魅入られた読者。

ファンショーを探してパリで滞在している章の中で、別荘から戻ったパリでの一ヶ月間、過度の飲酒で自分自身を別世界に追いやっている過渡期に、いきなり地の文が出てくる。

しかし、その結末だけは僕にとってもはっきりしている。それは忘れていない。これは幸いことだと思っている。なぜなら、この物語全体が、結末において起こったことに収斂しているからだ。その結末がもしも僕の内側にのこっていなかったら、僕はこの本を書きはじめることもできなかっただろう。この本の前に出た二冊のほんについても同じことが言える。 『ガラスの街』、『幽霊たち』、そしてこの本、三つの物語は究極的にはみな同じ物語なのだ。やはり、この三部作で完結していると思う。 

日本では出版社も別々ですがペーパー・ブックでは一冊になっているので。

最後の章の展開。

前、二作では救いの無い結末だったのですが、三作目では意外な結末。これを出来たから著者はファンショーにならずに本を書けたということか?