ポール・オースター 幻影の書

リヴァイアサンと同じくポール・オースターの世界が見事に描いた小説。彼の最高傑作との評価はその通り。

リヴァイアサンを読みきれなかった事と、トゥルー・ストーリー、ナショナル・ストーリー・プロジェクトの内容に興味を持てず、ポール・オースターから離れていたのですが、もっと早く読めば良かったと後悔しています。

小説の雰囲気としてはリヴァイアサンに近いと思います。最初は幸福そうなストーリーで始まるリヴァイアサンとは異なり、妻子を飛行機事故で無くして、自殺まで考えている小説家の主人公から始まるので最初のとっかりは違いますが、突然、映画界から消えた俳優ヘクター・マンを探す(残した作品を見るために旅行して)、本を書くことで主人公本人が救われていく前半部分。

この本が発刊されて、ヘクター・マンの夫人と名乗るフリーダ・スペリングという女性からの手紙。 これに対して主人公は興味を見せないのですが、突然、現れたアルマ・グルンドと言う女性が、危篤の状態にあるヘクター・マンの所へ主人公を強制的に連れて行こうとする展開。この展開で私は村上春樹の小説を思い出してしまいました。主人公は本を書いた事でヘクター・マンにはけりを付けているのですが、無理矢理に現れて、拳銃を突きつけてまでヘクター・マンの所で連れていこうとする魅力的な女性。

ここで、この女性が書いたヘクター・マンが映画界から消えた理由、その後のストーリが、ポール・オースターの小説の特徴の入れ子構造のもう一つの小説になっています。

また、この本で描かれているヘクター・マンの作品も虚構の映画の作品の批評!として、虚構の映画自体を小説の中で作りあげています。

ヘクター・マンが失踪後、ニュー・メキシコで誰かに見せる為では無く、仲間(ファミリー)と映画を作成していくストーリーは、米国のヒッピー、フラワー・ムーブメントの世代が、その後コミューンを作っていた話と似ている印象があります。

ストーリーは、主人公がニュー・メキシコのヘクター・マンのコミュニティについてからめまぐるしく展開していきますが、主人公とアルマ・グルンドの恋愛関係の描きかたがウェットで、ポール・オースターもこう言ったガチな恋愛の描写をするんだと意外でした。

幻影の書 (新潮文庫)